当社に寄せられたメールの内容です。
差出人:ベスパクラブジャパン 山辺様
こんにちは、先日見学に伺わさせていただきました、山辺です。
知人からヤブサキさんの「タクミの技」については聞かされていたもの
の、同時に「仕事に厳しい人ですよ」とも言われていたので、正直「怖
い人なのかな?」と勝手なイメージを抱いておりました。
ところが、先日の『オールドタイマー』誌の付録版DVDを見て、
まずその「技の凄さ」「速さ」に衝撃を覚え、「これはなんとか、見学
に行ってみなくてはいけないな〜!」といくことになりました。なによ
り怖い人だったらどうしようと勝手に思い込んでいたヤブサキさんのイ
メージがDVDの楽しい(失礼!)トークで一気に吹き飛んだとい
うのもあります(笑)これが後に大きなカンチガイ(?)であったので
すが.....。
さて、約束の1時きっかりにファクトリーに到着......「いらっ
しゃい!」笑顔のヤブサキさんが迎えてくれました。タクミ技、職人技
をいくつも体得した方とは思えぬほんわりしたお人柄はDVDの通
りでまずは一安心。「ま、まずはこっちへ」と事務所に通されます。ち
なみに、事務所からはファクトリーは見えません。正直な気持「早く見
てみたい....」と気持的には前のめりだったのですが、そこはガ
マンガマン......
『オールドタイマー』誌のイベントでの実演の
ビデオを見つつ、ヤブサキさんがにこやかに現在進行中のプロジェクト
をいろいろお話をしてくださいます。
事務所にはすでに何人かの実際のお客さんも来ておられました。次に愛
車のレストアを依頼される方、現在スバル360をレストアされて
いる方......。何年先までもプロジェクトが予約で埋まっている
のを聞いていたので、このお二人もだいぶお待ちになったんでしょう
ね.....。そういえば赤いスバルの姿がビデオにも映ってまし
た。きっとあのクルマが今まさにベアメタル状態で作業されているので
しょう。ますます見てみたくなってきました!
さて、そんな「鼻の穴フクラマシ状態」になったぼくらのムードを察し
てか(?)いよいよファクトリーの方に入っていいよということになり
ました!そこには板金作業真っ最中の銀色のスバル360
が....と思っていたら......あれ?スバルの姿はどこ
に???戸惑っているとヤブサキさんがその場に置いてあるパネルを持
ち上げました。
「これが今やってるスバル360のフロアの横のところです」あ、
たしかに見覚えのあるパネルです.....そう思って気がつけば、
その周囲ににぶく銀色に輝く細かいパネル類がたくさん...これ
はすべてスバル360のものでした。そう、パネルを作り直して行
く過程でスバルくんはバラバラに分解されていたのでした。
そのパネルはサイドの下の部分、スバル360で言えばかなり複雑
に曲面が変化した上にジャッキアップポイントもあるため、相当複雑な
形状の部品です。内心『へぇ〜、板金したとはいえ、きっともともとの
程度が良かったんだろうな...だって切り継いだ部分がわからな
いもん』と思っていました。
しかしその時「で、これがもともと付いていたパネル」とヤブサキさん
が持ち上げたモノを見て愕然!それは無惨
にも錆で枯れ葉のように細かい穴の開いた板状の物体....そう、
それこそがまさに元々ついていたオリジナル。そして、さきほどヤブサ
キさんが見せていたくださったのは「仕方なく全部自分で作っちゃっ
た」とナニゴトもなくおっしゃるワンオフパネルだったのです(汗)
しかも、ダメ押しは次の瞬間です。その2枚.....グサグサに錆び
たものと新規のそれ.....を合わせた途端、ピシッと張り付くよ
うに寸法、形状すべて合致しています。「だってこれが合わないと付か
ないじゃない。当然の仕事してるだけですよ」といたずらっぽく笑うヤ
ブサキさん.......。す、すごい(汗)
『オールドタイマー』誌やDVDで頭ではわかっていたとはいえ、
やはりどこかで「板金作業は車体の形のまま行うもの」という先入観が
あったのです。そう、ヤブサキさんは必用とあればパネルごとに板金し
ていくこと、そしてそれがいかに超絶技巧を必用とするかを瞬時に理解
しました。
その周囲にある細かいものもすべてに造作が丁寧に入れられ
ています。そこに投入されている技術、時間を想像するだけでクラッと
きました。
そしてこの時、ヤブサキさんの独特のトークが、実は「ものすごく丁寧
に、また正直に」ご自分のレストアへのスタンスを表現されているのだ
ということも思い知りました。なにしろ包み隠さず、いい部分も悪い部
分も(まあ、悪い部分はヤブサキさんの工夫で解決してしまうのです
が)ぼくらが誤解しないように教えてくださいます。ぼくも旧車趣味は
長いのでいろいろなお店とも付き合ってきましたが、ここまで丁寧に説
明されたことはありません。
しかも、「トークで言いくるめようというのではないよ」と笑うヤブサ
キさんのおっしゃるとおり、そこにあるパネル類のすべてが、「すっき
り」しています。すっきりというのは目で見て、手のひらでさわって、
何も破綻がなく「正しいフォルム」を形成しているということです。逆
に言えば、未使用のパネルになぜか溶接跡やスポット、絞りの模様が描
いてあるよう...といったら言い過ぎかもしれませんが、それく
らいの「説得力」があるのです。
実際、ブラストブースでも、ジャッキアップされたスバルのフロア(あ
まりにバラバラなので最初は気付かなかった!)に先ほどと同じような
サイドのパネルを「付くかどうか.....試しに付けてみるか
な?」とヤブサキさんが差し込むと、まるで磁石で張り付くように「パ
チン!」という音と共に一体化してしまいました。装着されてしまうと
まるで富士重工から出たパーツのように、デザインの流れが澱みなく続
いているのです。これは驚きます。たいがい、それらしく叩いて、あと
はパテで....という職人さんがほとんどなわけですから。
その後は幾度も溶接を繰り返され、修正された箱スカのフェンダー、膨
大な「新品再生済みパネル」のストック。ヤブサキさんのPCの先
生がご愛用の「20年前にレストアしたブルーバード310」
も見せていただきましたが、これもまた20年前のレストアとは思
えないシャキっとした姿......見るものすべてが想像を超えてい
ました。
くだんのトヨタ2000GTの「パテ造形」された古いパネル
の実物も凄かったです、それはもうあの2000GTが如何にシビアな
状態だったかを無言で語りかけてきます。今や往年の美しさを取り戻し
たあの姿に到達するまでの14ケ月の苦闘も現物を見てその困難さ
と達成された結果の価値を実感しました。
さて、それから一拍おいて、ぼくらの本題。実はぼくらも素人趣味の延
長線で板金作業を試すことがあるのですが、当然ながら、なかなかうま
くいきません。で、例のヤブサキさんの当て盤とヤスリハンマーを買っ
てみようというのが目的だったのです。ぼくらは旧い車両、特に小さな
乗り物が好きなのですが、細かいモノコック構造であったり、外板が薄
かったりと実は素人の手に余る難易度だったりするのです。その入門に
あたって、変な自己流で凝り固まってしまいうまくいかなくなるより
は、ヤブサキさんのように名人のお話を聞かせていただいて参考にでき
たらと思って伺ったわけです。ヤブサキさんはなんら隠す事無く「そう
いうのはね、こうこくこうやるとできちゃうのよ」と嬉しそうにお話し
てくださいます。普通であれば煙たくいやがられると思っていた我々で
したが、ヤブサキさんの会話の妙に引き込まれ、その「鉄を自在にあや
つる」夢のような創作の世界の一端を伺う事ができました。どうやら直
伝の講習会もあるとか.....ものすごく興味が湧きます!
そして、「俺の情熱の区切りもいつか来るだろうから、それまでにやれ
ることをやってみたい」とおっしゃるそのお言葉の裏に、確固たるご自
身の腕への自信、すなわち「ちょっとやそっと教えたところで誰にも追
いつかれないよ」という余裕が伺えるのでした。そう、やさしそうな雰
囲気というのは、この余裕に他ならないのです。たしかにかつてぼくの
友人が教えてくれた「ヤブサキさんは仕事に厳しい人」というのは間
違ってはいなかったのでした。
朝6時に起きて、仕事を始め、昼の3時には一区切りして晩酌してオシ
マイとうそぶくヤブサキ名人。しかし、気になることがあると、深夜に
ファクトリーに戻ってじっと作品と睨み合う真剣さ......商売と
してというよりもご自分の板金への情熱への挑戦なのだということが伝
わってきます。
飄々としているようでいて、納得のいかない仕事を誤摩化すことの嫌い
な、それでいて依頼者に余計な負担がかからないようにと常に気を配る
名人は、まさに「ゴッドハンド」でありました。
楽しい時間が過ぎるのは速いもので、板金のお話だけでなく、若き日の
思い出、武勇談などもたっぷり堪能させていただき、事務所を出たのは
夜中の9時でした。途中、奥様に差し入れなどもいただいてしまって、
本当に恐縮至極......(汗)ラフな部屋着に着替え、眠そうな目
をこすりながらぼくらを見送ってくださったヤブサキさん。「お〜、今
夜は少し、星が見えるな.....」と子供のように嬉しそうな体を
装ってくださいましたが、ちょうどお仕事の区切りの時期とは言え、本
当ならお相撲を見て寛ぐオタノシミを諦めて、本当に長時間ありがとう
ございました。
旧いクルマを一台でも残して行こうというぼくらと共通
の情熱、ぼくらの幼稚な質問や相談にもにこやかに答えてくださったお
気持ちに感激しながら、ぼくらはファクトリーを後にしました。まあ、
本当はクルマの中にご相談したかった車両に一部が載せてあったのです
が、あまりの感激にすっかり言いそびれてしまいました(笑)今度はそ
れの相談をしに、また伺います!(笑)